令和4年度 木曽川水系 十王沢第2砂防堰堤改築工事
十王沢第2砂防堰堤改築工事について
☆事業の目的と内容
砂防堰堤は土石流を受け止めたり、勢いを弱めたりといろいろな役割を果たしていますが、砂防堰堤の中にも種類があり(大きく2種類)、それぞれに長所短所があります。
十王沢第2砂防堰堤は当初「不透過型」と呼ばれるコンクリートの壁を作って土石流を堰き止めるイメージの種類でした。このタイプのメリットは日頃から大小の土砂移動を溜め込み、もし土砂が満タンに溜まってもその分上流の川の勾配が緩やかになるため、さらに土石流が起きても勢いを弱める効果があります。
一方「透過型」と呼ばれる種類は、完全に壁で塞がない事で普段の土砂移動はすり抜けるため、大規模な土石流を直接受け止めます。また、上流で土石流に巻き込まれた流木を受け止める能力が不透過型よりも高いのがメリットです。しかし、受け止めた土石流は取り除かないと次回の土石流を捕捉する効果が発揮できません。
十王沢には4基の砂防堰堤が整備されており、土砂整備率(※1)35%であるのに対して流木整備率は8%と低い。このため流木整備量を緊急的に向上させることを目的に、この「十王沢第2砂防堰堤改築工事」が行われており、「不透過型」から「透過型」へ改築します。ちなみに完成後の流木整備率は36%まで向上します。
十王沢のある上松町と同じ木曽郡内である南木曽町梨子沢で平成26年7月9日に発生した土石流災害においても、大量の土砂と共に流木が流出しました。
※1 整備率:流出が予想される土砂量に対して施設設置により抑止効果が見込める土砂量との比率
☆今回の工事内容
前回の令和3年度工事までに、「不透過」部分のコンクリートを撤去して、「透過型」鋼製枠(スリットとも呼ぶ)を半分設置しました。今回の令和4年度工事では残ったスリットの左岸側と、腹付コンクリート(※2)の左岸側を施工します。令和3年度工事の『現場日誌』にて鋼製枠の施工状況について掲載したので、今回は腹付コンクリートについて施工状況を掲載しようと思います。
※2 不透過部分のコンクリートを撤去した分、砂防堰堤自体の重さが軽くなってしまい安定性に欠けてしまうため、残っているコンクリートの躯体部分に新たなコンクリートを肉付けして安定性を確保するものです。下図「完成予想図」コンクリート堰堤本体工の内青色着色部分。
☆腹付コンクリート施工状況
① 床掘り
まず、腹付する最下端部分が地中に埋まっているため重機で掘ります
② 表面処理工(旧砂防堰堤)
次に腹付する旧コンクリート表面のコケやゴミ、経年劣化したもろい部分が残らないように、ウォータージェットという超高圧水を吹きかけて飛ばします。この処理により新旧コンクリートの付着が良くなり、品質の良い構造物に仕上がります。
③ 差し筋
もうひとつ新旧コンクリートの打継ぎ処理で、旧コンクリートに差し筋を行います。詳細は令和3年度工事にて紹介しています。
④ 型枠組立(コンクリートを流し入れて固まるまで形状を維持する入れ物)
⑤ コンクリート打設
コンクリート打設当日は乾燥している打設面に水を掛けて湿潤状態にします
また、前回打設したコンクリートの表面は敷モルタル(コンクリートの大きな骨材(石)の入っていない物)を施します。これは前回と今回のコンクリートの一体性を向上させます。
以上の処理を行った後、コンクリートを投入します。投入方法も種類がありますが、当現場ではコンクリートホッパーに生コンを入れて、クレーン車にて投入場所へ運んで投入・打設する方法で施工しています。
投入したコンクリートはバイブレーター(振動機)で締固めていきます。この締固めをおろそかにすると密度が粗く、粗悪な製品となってしまうので入念に行います。
当現場では1回の打設高さを基本1mに設定しています。1回の打設の打込厚さは50cm程度が基本なので、締固め不足を防ぐためにバイブレーターに挿入深さ(60cm)が確認できるようマーキングして確認しながら打設します。
⑥レイタンス除去
コンクリート打設完了時に表面にはセメントや骨材(石)、砂より比重の軽い水(ブリーディング水)が浮かび出ます。ブリーディング水は浮上する時に微細な粒子を含み、表面に薄膜状となります(レイタンス)。レイタンスはコンクリートより脆弱な物質であるため、品質の良い構造物にするためにはコンクリートが硬化した後に取り除く必要があります。当現場では高圧水で取り除きます。
⑦ 湿潤養生
コンクリートは特に初期段階(ある程度の強度が発生するまで)の直射日光や風等の影響で急激な乾燥が起きると、著しく品質を損ねます。このため特に露出面は養生マットにて覆い湿潤状態を保ちます。
以降は ③差し筋 ~ ⑦湿潤養生 を繰り返し施工して完成を目指します。
進捗状況(月毎)
当現場でのコンクリート堰堤工は繰り返し作業となっているので、参考に月毎の現場移り変わりを掲載してみます(5月~)。
鋼製枠(スリット)を10月に施工しました。その後もコンクリート堰堤の作業を行ったためスリットが汚れてしまいました。まだ工事の引渡
し前ですのでブラシと高圧水で清掃しました。
お陰様でピカピカになりました!きれい好きな現場の親方ありがとうm(_ _)m
現場完成
前回工事と同様で5月末から着手し、無事年内に完成することが出来ました。施工中は一日に30台を超える生コン車が通行したり、鋼製堰堤搬入の際は普段通行しない住宅路を大型車両が通行したりと工事によるご負担をお掛けしましたが、地元住民の方々のご理解と周知にご協力頂いた関係機関、工事関係者の皆様にお礼申し上げます。